詩羽という、地域の人々の「恩」で生きている女性を主人公にした短編集です。
彼女は長い間、特定の家もなく、またいっさい現金に触らず他人の親切だけで生きています。
そんな詩羽が自分の目に留まった幸せそうじゃない人をデートに誘って、その人の特技や趣味を見極めて別の人の困りごとに繋げ、関わる人を皆幸せにしていくという話です。
現実的ではないものの、本当にこんな女性がいたら私も出会って少しだけ幸せにしてくれないかなと思ってしまいます。
そして彼女自身の、人の親切だけで生活するという生き方には憧れすらします。
誰かと誰かを幸せのサイクルで繋げていくことを「仕事」と呼びながらも、実際には誰からも現金を受け取らないなんてありえません。でも、それがとても素敵に見えるのです。
無給のコンサルタントとも言えてしまいますが、そういった堅苦しいビジネスの空気もありません。
詩羽の独特な視点やデート内容は自分でも真似してみようかなと思えるほど気軽で簡単な物ばかりです。
一つ一つのエピソードがとても清々しく、文字を通して詩羽の笑顔や涙が目の前に見えるようです。
どのエピソードの主人公にも魅力があります。詩羽の敵とされる人物でさえ人間味があり、その人間味が彼女の力によって変えられていく様も面白いです。
一話ごとに増えていくキャラクターが、最後の話に向かって盛り上がっていく様子も微笑ましく、「実際にこんな事が起こればいいのに」と思ってしまいます。
読み終えた後は、落ち込んでいた気分が少し楽になっている事に気付きます。